遊歩百景

書き物をします。

2022/9/21

 耐え難い夜だ。ひたすらに落ち着かないが、何をするのも億劫だ。本も読めない。映画も観られない。アイデアも出ない。制作が進まない。何もできない。無駄に時間を潰すだけ。叫び出したい衝動を、努力して抑えている。

 

 やはりずっとこんな調子なのだろうか。自らの嫉妬心を憎みながらも、その繁茂を止められず、さらに自分を嫌いになって、金に困って、時間ばかり経って、どうしようもなくなって、そうして、生まれてよかったなどと一度も感じることなく、朽ちていくのだろうか。

 

 それならば、本当にはやく終わりたい。苦しみを無用に長引かせることは、なけなしの尊厳の維持に著しく差し障る。

 

 楽に、なりたい。

喜悦

 このごろ、しばらく前までは感ぜられていた、作品を創る喜びを、あまり覚えていない。無論、以前だって、十のうち一、二の喜びがある程度で、残りは苦しみやら憂鬱やらで占められており、別に大して欣然と事に及んでいた訳ではなかったが、それでも、今よりは、まだ張り合いがあった。

 今は、猛獣の匂いを嗅いだ小動物のように、その幻影に怯え、悶え、右も左も知らぬまま、ただ狂ったように、どたばたと走り回っているような感じで、どうも、疲れるばかりだ。動かねば殺される、破滅する、しかしそもそも敵の正体も居場所も曖昧模糊として知れず、不気味な焦燥にのみ只せっつかれて、ぜえぜえ息を切らしている。眠ることも、喰うことも、それをしたばかりに取って喰われる気になって、実に落ち着きがない。石や木の実なぞをかき集め、何か防空壕のつもりか小山を拵え、それで少なくとも身を守る行動の成果物はできていると、何もしていない訳ではないと、そんな風に思って虚しい慰めを試みたりしている。そして、それは失敗している。不幸にもそこまでは馬鹿じゃないのである。

姉、ないし兄へ

 私は弟との二人兄弟であるが、実は両親は私の前に一人、死産を経験している。このことはずっと昔に、父親に聞かされたことだ。母親とは、その話をしたことはないように思う。

 例によって、その時分私は何かしらの理由で父から説教をくらっていた。理由は覚えていないが、さしずめ今日も学校に行かなかったとか、なにかそんなことであったと推測される。そのような発端から、いかにして死産の告白に至ったかなどは、なおさら記憶にない訳だが、「言うか迷ったのだが」という前置きがあったことはいやによく覚えている。

 生まれなかった兄姉の分まで、しっかりと襟を正して生きなければならないと、そのようなことを考えさせたかったのだろうか。その目的は当時も今も判然と分からないが、もし私の推量が正解とすれば、幼心に受けた印象と同様に、ナンセンスであると断じざるを得ない。なにせ相手は私である。

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 姉、ないし兄よ。私はあなたが羨ましくてなりません。何故、生まれなかったのですか。聡明にも、この世に生まれるだけの価値がないことを察知し、おやめになったのですか。

 とすれば、私はその賢さが羨ましい。おなじ親を持ちながら、愚かな私とちがい、最も大切な判断を、誤らずに立派に下したとは!私は、同時にあなたを誇りに思います。賢明なあなたを、嬉しく思います。


 あなたの愚弟は、ご覧のように、苦しんでおります。ほんの少しでもあなたの慎重を分有できていたならばと、思わない日はありません。

 私は、そう、苦しいのです。生まれてきて良かったと、衷心からそう感じたことなど、いまだ絶無であると思います。それは、良いことも、ありますけれど、だからといって、常態的に強いられる苦痛と引き算をしても、なおそのように思えるような、そこまでの稲妻のような歓びには、どうやら無縁のようです。早い話が、割に合わないのです。それを普通と飲み込めるだけの度量も、私には備わっていないのです。きりきり、きりきりと、胸を責め立てる怯懦を、上手にいなせる技術も、体得し損ねたのです。そのうえ、人の愛を集めることも、また能動的に愛することも、できないのです。出来が、悪いのです。向いていないのです。


 それでいながら、私は創作やら名声の幻影にたぶらかされ、いまだに、みじめに、もぞもぞ動いたりしております。なんて、滑稽なのでしょう。報われないであろうことがほとんど明らかに分かっていながら、あれこれ考え、唸って、息切らして、結果として得られるものといえば、疲労や焦燥、恥辱ばかりです。

 それによしんば上手くいったとして、それはそれで今度は失う恐怖やら何やらと、新たな問題に蝕まれるであろうに、また、飛躍するようですが、それによって別に世界が良くなって、誰も傷つかなくて済むようになるわけでもなしに、どうして、頑張るのでしょうか。どうして、生き続けるのでしょうか。私は、やはり、どうも、だめです。あなたと違って、生まれる前から馬鹿なのですから、それは、馬鹿に育ちます。当然の道理です。いくら勉強したって、馬鹿の表し方が豊かになるだけです。


 姉、ないし兄よ。私がこれからあなたのところへいけたとしたら、私を愛してくれますか。こんな愚か者は知らぬと、取り合いませんか。私は、死んでもひとり恥をかくのですか。

憧憬

『フロオベエルはお坊ちゃんである。弟子のモオパスサンは大人である。芸術の美は所詮、市民への奉仕の美である。このかなしいあきらめを、フロオベエルは知らなかったしモオパスサンは知っていた。フロオベエルはおのれの処女作、聖アントワンヌの誘惑に対する不評判の屈辱をそそごうとして、一生を棒にふった。所謂刳磔の苦労をして、一作、一作を書き終えるごとに、世評はともあれ、彼の屈辱の傷はいよいよ激烈にうずき、痛み、彼の心の満たされぬ空洞が、いよいよひろがり、深まり、そうして死んだのである。傑作の幻影にだまくらかされ、永遠の美に魅せられ、浮かされ、とうとうひとりの近親はおろか、自分自身をさえ救うことができなんだ。ボオドレエルこそは、お坊ちゃん。以上。』

(太宰治『逆行』より引用)

3rd album 『Wavelet』リリースしました。

 表題の通りですが、この度3枚目のフルアルバム『Wavelet』が完成しました。「さざ波」という意味です。


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【楽曲リンク】

3rd album 『Wavelet』

https://distrokid.com/hyperfollow/f3c284d/wavelet

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 告白しますと、実はこの文章を認めている時点(2022/7/15)では、まだアルバムの最終チェック・修正の最中なのですが、この作業に気の遠くなるような苦労と時間の消費を強いられるあまり、完成後の感覚を想像することで、ある種のカンフル剤の効果を得ようという切なる動機に唆されている次第でございます。

 このアルバムは昨年2021年内には録音まで済ませていたのですが、その後mixに手こずった上、数曲のタイトルやアルバムジャケットがどうしても決まらず、ぐずぐずしている間にこんな時期(2022年7月)になってしまいました。


 (7/17追記:チェックを終え、リリース登録する直前になって、アルバムタイトルに放送禁止用語が含まれていることが発覚し、急遽変更を余儀なくされるというトラブルもありました。結果的には変えた後の方が気に入っているのでよかったと思っています。なお着想を得るべく、暑い中港の見える丘公園をうろついたのは、益があったのか定かではありません。)


 本当に、時間の経つはやさには眩暈がする思いです。


 閑話休題

 この3枚目のアルバムのリリースは、私にとって一つの節目といえます。

 それというのも、『愚者礼賛』、『goodbye』、そして『Wavelet』の3枚のアルバムを制作することは、実に約4年がかりの一大プロジェクトであったのです。

 本稿では備忘録も兼ねて、少々ここまでの制作秘話のようなことを書いてみようと思います。


 上述の通り、3枚のアルバムの制作は約4年前に構想した計画でした。『original imitation』という曲のMVを最初に公開したあたりの時期(2018年夏〜秋くらい)には、恐らく具体的に考え始めていたと思います。

 それまで単発でしか制作をしてこなかった私にとって、アルバムというのは一つの憧れでした。

 本当に作ってみようか、と考えると、不安な一方で非常な期待に胸を轟かせたことを覚えています。

 当初は4〜6曲程度のミニアルバムを想定していました。いきなり10曲以上のものを作ることは、やはり現実的に負担が大きいためです。

 しかしながら、収録曲を決めるべくSSDにある断章たちを閲しはじめてみると、幸か不幸か案外と候補に上がるものが多かったのです。ではこれも、それもと足していくと、あれよあれよとそれなりのボリュームになってしまいました。その上、アルバムという単位で曲目を考えてみると、流れとしてこんな曲が欲しいだとか、これもやってみたいだとか、どんどん欲がでてきたのです。

 私は観念して、茨の道に踏み入ることにしました。


 しかし人の欲とは実に尊大なもので、その要求はとても1枚のアルバムに収まり切るだけのものではなくなりました。全く具体的な姿形をとらないアイデアさえも、一度浮かぶと要るといって聞かないのですから困りものです。


 それならば、いっそ最初から複数枚を想定してみようという運びになりました。

 

 思案の結果、計画はざっくりと以下のようになりました。


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1枚目:日本的な感覚を重視しつつ、極めて個人的な内容の作品

 


2枚目:西洋的な発想も取り入れながら、商業的な雰囲気を排除した、実験色がつよく吐き捨てるような作品

 


3枚目:華やかで聴き心地のいい、ポップな音像と思索性を両立した作品

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 この計画は、個人的に満足のいくものでした。これならば偏らずに様々なアスペクトを表現できると、親切な友人に気焔を吐いたりしておりました。

 当初は2年程度ですべて完遂できるだろうなどと甘く考えていましたが、実際は1枚目から想定を大幅に越える苦労を味わいました。

 歌詞や曲の制作もそれなりに難航しましたが、なによりも、歌が下手だったのです。それは今でもお世辞にも上手いとは言えませんが、当時は輪をかけて悲惨で、執拗に々々々録音をおこない、一部分の録り直しまで全て含めると、実に1000テイク以上やり直した曲もあるほどです。

 ようやく諦めて歌録りを終えた後は、その膨大なデータから比較的マシな部分を探して繋げる作業と、曲全体のmixおよびマスタリングという苦行が待っていました。

 『愚者礼賛』には、2018年に発表した『original imitation』の2020年バージョンが収録されていますが、実はこれはずっと2019年バージョンとして制作していたのです。全く2019年内の発表に間に合わなかったため、泣く々々2020年バージョンと書き換えリリースしたのでした。


 最初からそんな調子で遅れをとってしまいましたから、その後もどんどんとズレ込み、この計画は約4年後の今になってやっと完了しました。勿論つきものが取れたような感覚もありますが、なんだか、もっと肝心なことに直面するのを避ける言い訳にしてしまってきたような、後ろめたい気持ちもあり、あまり喜びが湧くことはありません。

 血を吐くような思いで作っても、現状ほとんど聴いてもらえないということも、あると思います。


 とはいえ、「偏らずに様々なアスペクトを表現」するという目標は、かなり達成できたのではないかと思います。勿論古い音源は、いまからするともっとあれこれするべきだったと感じる部分も多々ありますが、それは見方を変えれば成長とも考えられますし、一先ず自分一人でこれだけの作品群を書き上げたことに、もう少し誇りをもつ方向で努力をしてみようと思います。


 これからは、しばらくアルバムを作ることはないかと思います。というのも、前述の通り現在も本当は3rdの最終調整中で、気が触れそうなほどの苛立ちやら焦りやらに憔悴しているからです。


 とはいえ、これはずっと以前から考えていることですが、私にとって創作とはある種の代謝ですから、快不快を問わず、私にとって否応ない不可避的な行為です。また懲りずにやり始めるかもしれません。


 取り敢えずは、当面単発で楽曲を発表していく予定です。ほかにも映像作品やカバーなどにも、できるだけ取り組みたいと思っています。


 なんだか、ようやく出発点に立てたような感じがします。

 引き続き強力な無気力や憂鬱に抗いながらにはなりますが、焦りからだけでは作品はできないので、どうにか折り合いをつけていけたらと思います。


 さてここからは事務連絡なのですが、今年の秋ごろに2ndアルバム『goodbye』のアップデートを予定しています。というのも、現在の契約を満了次第、ディストリビューターを変更しようかと考えているのです。先日久しぶりに当該作品を聴き直してみたところ、流石にどうしても我慢ならない箇所があったので、せっかくだから再アップロードの折に、その部分だけちょっと手を加えておこうと目論んでいます。


 その際、Apple MusicやSpotify上で歌詞の表記が一部変更される可能性があります。本当は極力変えたくないのですが、ディストリビューターによって使える記号やらなんやらと異なる制約があったりして、結構大変なのです。

 なお他の作品の歌詞にも、一部本ブログとの表記揺れがありますが、原則こちらのブログ上の記載が本当です。何卒よろしくお願いいたします。


 長くなりましたが、そろそろ筆を置くことにしようと思います。

 これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 


土屋穂高

 

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【楽曲リンク】

1st album 『愚者礼賛』

https://distrokid.com/hyperfollow/3139d1a/gGBONUW3ZaV


2nd album 『goodbye』

https://linkco.re/YVYGPSvd


3rd album 『Wavelet』

https://distrokid.com/hyperfollow/f3c284d/wavelet


instrumental album 『CRAZY J@P』

https://distrokid.com/hyperfollow/c210715/crazy-jp


instrumental album『Dear Mr. Alien

https://distrokid.com/hyperfollow/a7af277/dear-mr-alien