遊歩百景

書き物をします。

よろめき (wavelet)

浅い夢は海泥 残影が纏繞して

まどろみの破れるあわいに 揺れる微笑に覚えず

いつかのそれのように触れる

カーテンを開いて 差し込んだ陽を受け

絵画のように遠ざかりゆく美をつい

呆然と見送ってしまう


コールバック、伝言はない

時間を示す表示のみが目に染み入る

ティーバックを冷え切ったカップから

取りだした拍子に液晶を濡らす


嘘に付帯していた軋みが消えた

触れる手がまた柔くなった

見覚えのないくらいに

綺麗さを増してゆく瞳

鷹揚に濡れて射るように座している


愛猫のような要求は

遠く手を離れていってしまった

煩わすものはもうない

平穏な宵は呆れてしまうくらい

もうどこまで行こうとも本当で

耳の鳴るように蕭条


感情が水溶性だとしたら

合羽も傘も置いて黒い街頭へ行ってしまうのに

実際は重くなったスニーカーを引きずって

覆うような寒さに震え敗走するだけ


懐中で湿りを受けてしまったシガーは

仮令ライターで幾度炙ろうとも

火は点じようもない


笑みに付随していた憂いが消えた

会話をキスで簡単に埋め出した

広い部屋薄い灯り

重い目線が蟻みたいに

写真の上部で踊る


さあ栓を抜こう 酔いこなそう

あてがいましょう最高に愉快なるショーを

灰のノイズの海を逍遥し

畢竟灯りを落とすのも

錠を下ろすのも

能わないそんな滑稽な虚栄心を

あと何杯のショットが満たす? 


ほんのもう少々でもいい

スヌーズしよう

安寧と懊悩との引き換えの要する

諦念が十分とは言えない


浅い夢は海泥 残影が纏繞して

まどろみの破れるあわいに 揺れる微笑に覚えず

いつかのそれのように触れる

カーテンを開いて 差し込んだ陽を受け

絵画のように遠ざかりゆく美をつい

呆然と見送ってしまう


移ろいはさも蹌踉のよう

飄零しゆく淡い桜花

その残香を呑む細い背さえ

緩慢にそっと 倚れるように