遊歩百景

書き物をします。

残光の落し物

 凜然とした空気は、淀みなく、先々まで貫くように見せる。

山々は雄大に展開し、まばらにちぎれる雲は、もはや白くはなく、紺色に落ちつき、そのすきまからは、さらにその奥に広がる虹色の空がのぞく。

 

 この虹は、雨あがりに架かるものとは一味違い、十以上にも色をのせている。

見上げる角度には藤色、目線を空になぞらせ落としていくと、絵の具に水を落としたように、ぽっとかわいらしく薄まり、そしてここからは、目線を上下に動かすというよりは、半球体の天井を見送るようになめてほしいのだが、白けた水色のその先では、漸々と茜と混じっていき、最後には暗ったくにごり、そして山にかえっていく。

 

 まるで絵画か写真芸術の世界にふらりと迷い込んでしまったようで、うっとりとなるが、その中で、意識を取り戻した瞬間ごとに、夜が確実に気配を強めてゆくその儚さは、やはりここは現実なのだと思わせる、悲しくもいじらしい一本の糸である。

 

H26.12.7