遊歩百景

書き物をします。

烏 (愚者礼賛)

 

ささくれ爪で引きやった 真っ赤な命が膨らんで

じくじく痛むその口に吸いついてみた

煮崩れかけてる夕焼けが べっとり広がり貼り付いて

手を振る少女の影法師 隣で曲がった

 

猫らの脅嚇 枯葉の衣擦れ

連れてって 気付かず呟いた

 

一羽烏がぱらりと飛んだ

撓んだ腕に強さを示して

たなびく砂に裾をはたいた

あの横顔を見送ることさえもできやしないで

 

次第に辺りは暗がって 吹く風漸次にひやりとし

化け物よろしく揺れる木に 自然の妙をみた

忙しく働く鳩公が ぽかんとこちらを眺めてら

見栄張りかたがた指先で 白髪を探した

 

蜻蛉の擾乱 車輪の空咳

連れてって 気付かず呟いた

 

一羽烏がさらりと降りた

迎うる春夢の如き柔さで

紅霞の劇に欠伸かまし

あの羽の下のしなやかささえも知りやしないで

 

一羽烏がぱらりと飛んだ

撓んだ腕に強さを示して

たなびく砂に裾をはたいた

あの横顔を見送ることさえもできやしないで

 

一羽烏がからりと鳴いた

乾いた声に憂いを残して

感傷に飽きてただ伸びをした

立ち上がるとも居眠りをこくとも決まりゃしないで