遊歩百景

書き物をします。

 朝、朝。

 私は朝に犯される。

 


 鳥、車。

 青い光に犯される。

 


 目覚めの気配が、どれだけ怖いか。

清潔な匂いが、どれほど酷いか。

 


 ねえ、あなた、知ってる?

私、自殺のことばかり考えるの。

 


 明日が来ないようにと、いくらいくら祈っても、どうしてもやって来る。

よさそうな顔して、やって来たりする。

 


 私が、そうやって、今日もいいように犯されているのに、それを見て、当然だろって、それどころか、良かったねなんて、そんな風に私を見て、言ったり、思ったりして、異常だ!

 


 異常者め!!

 


 気狂い!!

 


 人非人!!

 


 私、もう生きていたくないんだ。

自殺なんて、言ったりして、そうね、畢竟、それも怖い癖に、言ってみたりして、やれもしないのに、子供みたいに本当ぶろうとして、こんな文書いたりして、全然、ばかだけど、でも、そんな、自殺の怖さだけに生かされるなんて、そんな、そんなの、あんまりだ。

 


 私が、人質にとられているんだ!

 


 痛いなんて、苦しいなんて、嫌ほど味わっているのに、このうえさらに、それもそれこそ死ぬほど痛いとか、苦しいとか、なんて、ひどい。

 


 それは、作品への未練だって、ある。

だけれど、誰も見ちゃくれないし、生活の糧なんて、そんな、噴飯ものなくらいのことだし、いくらだってずっとすごい作品があるわけだし、もう、そこにすがって虚勢はるのも、いよいよ無理がみえてきた。

 


 虚勢、ああ、虚勢だ。

なにもかも虚勢だ。

死なないならば虚勢だ。

私だけじゃない、みんな、虚勢で、危なっかしい綱渡りを、平気そうな顔して、ぐらぐら落っこちそうに、アハアハ笑って見せて、そうやってできた集合体が、社会の、少なくとも土台の部分であって、そんな汚い土地にできる植物が、健全なわけもなくて、どっちのせいか知らないけど、とにかく、みんなダメなんだ。

 


 みんな、かわいそうなんだ。

 


 私だけが助かろうなんて、独善的で、いけないんだ。

 


 でも、私、別に、私ひとりがなんて、思ってない。

 


 みんな、助かればいい。

 


 いっせいに、終われればいい。

 


 誰も苦しまなければ、どれだけいいかって、本当にそう思ってるんだ。

 


 だから、もう、朝なんていらない。

 


 朝なんて、いらない。

 


 いらない。

 


 いらない。

 


 いらない。

 


 いらない。

 


 ーーーそれでも朝はやってくる。

 私に重くのしかかる。

 


 乱暴に貪られる。

 


 私の肌はやぶける。

 


 黄色い脂肪の隙間から、べとべとの血が染み出てくる。

 


 汚い臓器が作った液が、ぼとぼとぼとぼと垂れてくる。

 


 ぼとぼとぼとぼと、ぼとぼと垂れる。

 


 早く終われと、そればかり祈る。

 


 潰れるくらい目を閉じる。

 


 欠けるくらい歯を噛みしめる。

 


 嗚咽を聞いて、人がいう。

 


 「甘えるな!」

 


R.4 5/30