遊歩百景

書き物をします。

2020-01-01から1年間の記事一覧

Good, you? (愚者礼賛)

Good, you? 苦しめど特に割には合いやしないね 私はどうにもならないままでいるの 馬鹿みたい! 慄けど眠りゃ日が来る否応もないね 私はなんでか元気なままでいるの 分からない! 生れて、すみません。

治療

東京といえどこんなものかと、私はまたうんざりとした。 窮屈ながらも洒脱な吉祥寺の喧騒から、ひとつ、ふたつ程度隔たった場所にある、古ぼけたビルの4階の病院に、私は通っていた。 距離でいえば、華やいだ駅から大して離れてはいないはずだが、そこには、…

チエちゃん

チエちゃんは何だかその日、いつもと様子が違ったのです。 そして、ああ、もうきっと、昔と同じようにチエちゃんとお話しすることはできないと、私、そう感じているのです。 彼女は、変わりました。或いは、既に。 チエちゃんは、チエちゃんは、いいえ、この…

怠慢な日々を過ごしている。 不勉強にも磨きがかかり、反省も一過性、夢も一過性、目覚めれば昼、気がつけば夜。 こんな日々を過ごしてはいけないと、しかし根拠はないが、自分に言い聞かせ、そして結局、また同じように時間を過ごす。 今日は一度、まだ暗い…

残光の落し物

凜然とした空気は、淀みなく、先々まで貫くように見せる。 山々は雄大に展開し、まばらにちぎれる雲は、もはや白くはなく、紺色に落ちつき、そのすきまからは、さらにその奥に広がる虹色の空がのぞく。 この虹は、雨あがりに架かるものとは一味違い、十以上…

未来

今日で十七になった。 これまでの年月、それどころか昨日のことでさえ、白くもやがかかっているようで、本当はそれらは一切合切全く夢だと言われれば、納得してしまうかもしれない。 まだ、若い。 先日風邪をひいた。ほんの気のせいかもしれぬ症状が、刻々と…

過去の我曰く、恋は妥協。 今日の我曰く、恋は生の渇望。 君は、堕したと嘲り笑うだろうか。 だが、君、見給え。 見てくれが上等だろうが違おうが、女を侍らせ、顔のあらゆる筋肉を弛緩せしめたる、あの青年こそ、生の体現者そのものではないか。 今日は右手…

エロースの徒

私は疾うより、己への嫌悪も、阿諛も、怠惰も、全てそれと装った愛憐にすぎないことを、知っていた。 あの時分殴りたおした男も、あの時分抱いた女も、詰まるところ自己愛故であり、別に忿怒に駆られた訳でもなければ、愛情の熱に焼かれた訳でもない。 ただ…

恋慕

「あぁ、フられちゃった」 君は振り払うように声を出し、快活にのびをした。 日はすでに遠くの方で茜に燃え、真っ黒なカラスがくるりくるりと影を送っていた。 くぅ、と、詰まった声を漏らし、君は腕をおろした。 僕はただいまの声に瞬時に絆され、跪きたい…

疾苦

懶惰。倨傲。甘え。マゾヒズム。ナルシズム。焦意。諦念。優勝劣敗。哀願。無学。慚恚。憤悶。刻苦。阿諛。悔悟。欠如。拘泥。見栄。利己。醜悪。嫉妬。 いつか、安心したい。 H26.12.13

裁判

「ねえ、もう許しておやりよ」 油くさい声がきこえ、私は意識を取り戻した。 眼前ではユイが両手のひらを顔に押し当て、めそめそ震えていた。 その隣で、太った女が彼女の肩を撫でこちらを睨んでいる。 私は、全くの無罪であった。 ユイの不義密通を責める気…

空間とも地平ともつかないどこかに、凪いだ純水が満ちて居た。 それは見事な透明色で、塵埃はおろか、如何許りの細菌類さえ存在していないようである。 美しいその水は、コップのような形の地形の、縁のほんの手前までせり上がっており、息をふっと吹きかけ…